家族でも触れてはいけない親父の金庫

kazoku_oyaji

私の父は鹿児島出身の、典型的な九州男児だ。いつも父の料理は他の家族よりも品数が多いし、父より早く新聞を読んではならないという暗黙のルールがある(他の人に先に読まれると新聞がぐちゃぐちゃになってしまうのが気に入らないらしい)。ゴミ出しはおろか台所に入ることもないし、脱いだものは脱ぎっぱなし、片づけるところを見たことがない。会社に行けば社内や営業先で頭を下げる分、家に帰ればどんなに父が悪くても謝ることはない。そんな父を理不尽だということに、結婚して子供が産まれるまでまったく気づかずに育った。それが当たり前だと思っていたからだ。私の夫も父ほどではないけれど、家のことは何もしないし育児に口出しも手出しもしない。今どきのイクメンとは真逆を行くタイプだ。もし父の理不尽さにもっと早く気づいていれば…夫と結婚していたかどうかは定かではない。

それはともかく、そんな父が所有する金庫もまた、父以外は触れてはならないという暗黙のルールがある。

私が幼い頃、一度だけ金庫の中に何が入っているのかとダイヤルに手を伸ばそうとしたことがあった。そのとき父は仕事で留守だったのだが、それにもかかわらず母が鬼のような形相で私のところにやってきて、「それには触っちゃダメ!」と言いながら強烈な張り手を食らわせられたことが忘れられない。普段は優しい母のその変貌ぶりが恐ろしくて、それ以来金庫には近寄ることもなくなってしまった。大きくなってから私の姉にそのことを離したら、全く同じことが姉の身にも起きていたということがわかった。一体あの金庫には何が入っているんだろうね?色々憶測を立ててみたけれど、答えは出なかった。母のあの変貌ぶりを見ると、普通じゃないものが入っているような気がしてならないのだけど。

とにかく父の金庫の中身の答えは、きっと両親の存命中には知ることはないということだけははっきりとわかっていることだ。